ヒトiPS細胞由来移植細胞における長期生着モデルブタの開発と再生医療への応用

遠山周吾
(慶應義塾大学医学部循環器内科学教室 特任助教)

2017年11月24日金曜日

ヒトiPS細胞由来心筋細胞の大量作製法に関する論文を発表しました

 皆さん、こんにちは。
 先日論文を発表しましたので、今回はその内容を少しご紹介させていただきたいと思います。
 
 私達はヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた心臓再生医療を目指していますが、まずはじめにその課題に関して述べさせていただき、その後にその課題に対する私達の対策をお示ししたいと思います。

 ヒトES 細胞やiPS 細胞のような多能性幹細胞は、体を構成するほとんどの細胞種へと分化できる多能性を持つことから、体外で作製した治療細胞を体内に移入することによる「再生医療」の実現が期待されています。しかし、心臓の再生医療を実現化するためには、いくつかのハードルを乗り越えなければなりません。その1つは①腫瘍化(がん化)する細胞を取り除く技術の確立であり、もう1つが②心筋細胞の大量作製法の確立です。

  ヒトES 細胞やiPS 細胞は、現状全ての細胞を心筋細胞だけに分化させることは困難であり、分化させた細胞集団の中に未分化幹細胞が残存する性質があることがわかっています。仮にこうした未分化幹細胞が生体内に移植されると、腫瘍を形成する危険性があるため、目的とする細胞を純化精製すると同時に、未分化幹細胞を除去する必要があります(課題①)。さらに、細胞移植治療により心臓の機能を改善させるには数億個という大量の分化心筋細胞を安定的に作製・移植する必要があり、安全性の高い心筋細胞を大量に作製する技術の開発が求められてきました(課題②)
 
 上述の課題①に対して私達のグループは、未分化幹細胞においてグルコースおよびグルタミンの代謝が活発であること、心筋細胞は乳酸をエネルギー源とすることを明らかにし、培養液に含まれているグルコースおよびグルタミンを除去し乳酸を添加することで腫瘍化の原因となる未分化幹細胞を除去し心筋細胞のみを選別する方法を報告しました(Tohyama S, Cell Stem Cell 2013, Cell Metabolism 2016)。しかしながら、一度に心筋細胞を大量に作製する技術の確立が課題となっていました。

 上述の課題②に対する先行研究として、三次元培養により分化した細胞を塊のまま大量に作製する方法が報告されていますが、三次元培養による手法は、腫瘍化の原因となる未分化幹細胞を完全に除去することが困難であり、その他にも細胞の増殖効率が低下する、細胞の塊の大きさを均一にコントロールできない、心筋細胞への分化効率が不安定といった問題がありました。これらの問題を解決するために、私達は多層接着培養系(4層もしくは10層)を用いて、ヒトiPS細胞および心筋細胞を一度に大量に作製する方法の確立を目指しました。しかしながら、多層接着培養プレートを用いる際には、細胞の増殖に必要な酸素や二酸化炭素が各層に均一に行き渡らないため、ヒトiPS細胞の増殖効率が低下し、その結果心筋細胞の作製効率が低下するという問題があることがわかりました。そこで多層接着培養プレートに酸素や二酸化炭素を強制的に通気させることにより、ヒトiPS細胞を安定して増殖させることが可能となり、一度に10億個の心筋細胞を作製することができるようになりました。

 本手法の確立により心臓再生医療実現化における2つの大きな課題を克服できたと考えています。現在、私達のグループはこの手法を用いてヒトiPS細胞から臨床グレードの心筋細胞を大量に作製しており、近い将来にヒトiPS細胞を用いた心臓再生医療を実現化することを目指しています。

※論文およびプレスリリースに関しましては下記のURLをご参照ください。 http://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(17)30382-X
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2017/10/6/28-24706/
 


 
 
 
 




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